京都地方裁判所 昭和43年(手ワ)485号 判決 1969年5月16日
原告
石渡享洙
代理人
能勢克男
外一名
被告
王利鎬
代理人
前田外茂雄
主文
被告は原告に対し、金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四二年九月二一日より、支払ずみに至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は担保を供せずして仮執行ができる。
被告において金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、
一 請求の原因として、
(1) 原告は次の約束手形一通を所持している。
額面 金三、〇〇〇、〇〇〇円
満期 昭和四二年九月二〇日
支払地 京都市
支払場所 株式会社協和銀行紫野支店
振出人の名称に附記した地 京都市
振出日 昭和四二年八月二〇日
振出人 三越通商株式会社
受取人兼第一裏書人 被告
第一被裏書人 白地
第二裏書人 三越通商株式会社専務取締役崔寿煥
第二被裏書人 白地
第三裏書人 青木英一
第三被裏書人 白地
(2) 被告は右手形第一裏書らんに、拒絶証書作成の義務を免除して裏書したものである。
(3) 原告は右手形を、その満期に該支払場所に呈示したがその支払いを拒絶された。
(4) よつて右手形の適法な所持人である原告はその裏書人である被告に対し、遡求権に基づいて右手形金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対するその満期のあとである昭和四二年九月二一日より支払ずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求める旨陳述し、
二 <証拠略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行免脱の宣言を求め、
一 答弁として、原告主張の請求原因事実はすべて否認する旨陳述し、
二 <証拠略>
理由
一<証拠>を総合すれば三越通商株式会社が額面金三、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和四二年九月二〇日、支払地京都市、支払場所協和銀行紫野支店、振出人の名称に附記した地、京都市なる約束手形を振出したことが認められ、右認定に反する証拠はなく、右甲第一号証の表面によれば、右手形の受取人らんに「王利鎬」振出日のらんに「昭和四二年八月二〇日」と記載されていることが認められ、また右甲第一号証の裏面第一裏書らんには「拒絶証書不要」の文字が印刷され、「三越通商株式会社専務取締役王利鎬」なる記名印が押捺され、その名下に「専務取締役之印」なる丸印が押捺されていることが認められる。
原告本人の供述によれば、被告は、その個人を表わすものとして、三越通商株式会社振出の右手形の第一裏書らんに、右のとおり、「三越通商株式会社専務取締役」なる職名を附して裏書したことが認められ、右認定に反する被告本人の供述はたやすく措信できず、その他に右認定を左右するに足る証拠はない。(氏名に職名を付記してその個人を指称することは取引において往々行われるところである、―最高裁昭和三〇年九月三〇日判決―集九巻一〇号一五一三頁参照)
右認定事実によれば、被告は、右手形の第一裏書らんに、拒絶証書作成の義務を免除して、個人として裏書したものであるということができる。
三越通商株式会社が右手形を、受取人らんおよび振出日のらんを未完成のまま振出したものとすれば、手形を未完成で振出したときは、特別の事情がない限り、その所持人に対し黙示的にその補充権を授与して振出したものと認めるべきであるから、特別の事情の認められない本件においては、右手形の所持人は、右受取人らんおよび振出日のらんを補充する権限を有していたものということができる。
二甲第一号証の存在によれば、右手形の第一被裏書人のらんは白地であり、その第二裏書らんには「三越通商株式会社専務取締役崔寿煥」のゴム印と、丸印が押捺されており、その第二被裏書人のらんは白地であり、その第三裏書らんには「青木栄一」と記載されその横に「青木」なる印が押捺され、その第三被裏書人のらんは白地であることが認められる。
そうすると、右手形はその裏書の連続において欠けるところはないものといわなければならない。
三甲第一号証の存在と成立に争のない甲第一号証の付箋の記載によれば、右手形は、その満期に該支払場所に呈示されたがその支払いを拒絶されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
四原告本人の供述によれば原告は現に右手形を占有していることが認められ、右認定に反する証拠はない。
五よつて、原告が右手形の適法な所持人として、その裏書人である被告に対し、遡求権に基いて右手形金三、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対するその満期のあとである昭和四二年九月二一日より支払いずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払いを求める本訴請求は相当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行およびその免脱の各宣言について同法第一九六条第一ないし第三項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。(常安政夫)